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第7話

「そうだね。それは私も同じだった。あの声は人間の声じゃないよ」 「兄さん、それ褒めてるように聞こえない。で、技巧はガルヴァニー、でもカラスの方が好きって事?」 「『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』はガルヴァニーが好きなんだけど、カラスは別格なんだ」 「なぁに、それ」 「マリア・カラスが不動の位置に居て、好きなのが当り前の前提で他の歌手のお話をされているんでしょう? 伝説と言われるだけの素晴らしい歌手ですよね」 錦の言葉に兄が少し驚いたように目を見張り、そして次にうれしそうな顔をした。 「あぁ、そうだね。君もそうなんだね」 兄の破顔などなかなか拝めるものではない。

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