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第8話

「えぇ、色んなオペラ歌手の歌を聞いても、結局はマリア・カラスが一番なんです」 「一番好きなのは?」 「難しい質問ですね」 「では、一番良く聴くのは?」 「オ・ミオ・バッビーノ・カロ」 乳臭い声で、話す外国語のタイトルはどこかぎこちない。 少しだけ、舌足らずになったから何だか可愛らしい。 兄は紅茶のカップを弄び笑う。 弟は「僕は、ハバネラの方が恰好良くて好きだな」と横槍を入れるが、兄は反応しない。 「君が言うと何だか」 「はい?」 「可愛いな」 兄がくつくつと低く笑い錦を見つめる。 冗談だと笑う気配では無く、錦は兄を見つめ返し瞬きをした。 何だか妙な雰囲気になる。 錦は「私のお父さんて、曲名が……そうですね」と曖昧に返事をした。

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