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第5話

自分だけが知らなかったのだが――どうやら夏の盛りに風邪をひいたそうだ。それだけなら良かったが、免疫力の低い彼は、二次感染による肺炎を発症したのだ。 容態は思わしくない。 面会自体が禁止されていると、家族全員が揃った部屋で母と父が深刻な顔で口を開く。 兄が、何かを話しているが言葉が耳に入らない。 姉が不安げに父に言葉をかけるが、意味を成さない。 自分は、そのあとの記憶が曖昧だ。 どうやって自室に戻ったのか覚えていない。 ただ、目の前が真っ暗になった。 容態は思わしくない――。 その言葉が重く圧し掛かる。

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