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第1話

もがきもせず、壊れていきそうな自身を自らの手で救済をする事もし無い。 今までもそうだった。 流されるまま、言われるがまま、繰り返すばかりの人生。 以前に戻るだけだ。 ただ一つ以前と違うのは、自分を認めてくれた人がいたこと。 だから、その人が居なくなれば自分はもう駄目になるんだと思う。 諦める事は慣れている。 依然として絶望が負荷となり精神はすり減っていたが、感じ続けていた恐怖は諦観の念により希薄になっていた。 如何にでもなれば良い。 廃人になるならそれでも良い。 錦が居ないなら、この世は未練を残す価値すらない。 錦が居なくなって耐えきれなくなれば――自分も居なくなれば良い。 そんな風に思い始めた夕暮れ。 錦は自分の運命だったと思い知る。 細い手で沈む魂を掬い上げたのは、矢張り錦だったのだ。

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