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第2話

「無事にご退院とのこと心よりお喜び申し上げます」 父の声を聞きながら、茫然と玄関先を見る。 木の葉の絨毯を背後に、夢にまで見た彼が目の前に居る。 冷たい空気に澄んだ空、赤や黄色の落ち葉が陽光を受け柔らかに舞う。 錦に会えなくて何もかもが淀んでいた。そんな色褪せた風景が一気に精彩を放つ。 「ご退院おめでとうございます」 家族総出で出迎え、口々に退院祝いの言葉を送る。 錦は丁寧に礼を述べ、そしてこちらを見つめる。 「久しぶりだな。――……少し、痩せたか?」 一人だけ退院祝いの挨拶をしなかったことを咎めるように、弟が小突いてくる。 突然のことに思考が追いつかない。 ショック状態から抜け出すことが出来ないまま、目の前に居る錦の姿が乱暴に脳内を掻き回す。凝った心が無理やり引きずり起こされる。

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