79 / 218
第2話
「無事にご退院とのこと心よりお喜び申し上げます」
父の声を聞きながら、茫然と玄関先を見る。
木の葉の絨毯を背後に、夢にまで見た彼が目の前に居る。
冷たい空気に澄んだ空、赤や黄色の落ち葉が陽光を受け柔らかに舞う。
錦に会えなくて何もかもが淀んでいた。そんな色褪せた風景が一気に精彩を放つ。
「ご退院おめでとうございます」
家族総出で出迎え、口々に退院祝いの言葉を送る。
錦は丁寧に礼を述べ、そしてこちらを見つめる。
「久しぶりだな。――……少し、痩せたか?」
一人だけ退院祝いの挨拶をしなかったことを咎めるように、弟が小突いてくる。
突然のことに思考が追いつかない。
ショック状態から抜け出すことが出来ないまま、目の前に居る錦の姿が乱暴に脳内を掻き回す。凝った心が無理やり引きずり起こされる。
ともだちにシェアしよう!