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第3話

「本当に……」 本物だ。 錦が目の前に居る。 何も知らなかった。 夏に壊れかけていた自分は周囲の声など聞こえていなかった。 錦に関する情報は一切遮断されていたのだ。 もしかしたら、刺激を与えないための優しさかもしれないが、自分にとっては意地の悪い真逆の行為だ。 退院おめでとう。 会いたかったよ。 そんな簡単な言葉が喉の奥に引っ掛かり、吐き出せない。 だって、何一つ聞かされていなかったから。 退院日も、容体の経過も。 皆、意地悪で自分を仲間外れにするんだ。 錦だけが優しくしてくれる。 甘やかしてくれる。大事にしてくれる。 認めてくれる。尊重してくれる。 「に、し……く」 唇が震え、名前を最後まで紡ぐことは出来なかった。

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