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第5話

別離を覚悟した夏の終わり。 深まる秋に凍った時が動く。 痛みと共に感情が、理性が、決壊した。 堰を切り溢れ身も蓋も無く泣き喚く。 そんな姿これ以上錦に見せたくなかったのに、隠しようがないほどの醜態を曝け出した。 錦を迎えるために玄関先に出向いた兄達が驚いた声で、名前を呼ぶがそれを振り払う。 酷く驚いた錦もしゃがみ込み、背を擦ってきた。 ふっと、あの香りが鼻先をくすぐる。 消えてしまいそうに淡い、ミルクとビスケットの甘い香り。 ベビーパウダーの無垢な芳香が鼻先を掠める。 感じ取った瞬間それは儚く消える。 切なさに涙がまた零れ落ちた。 錦は兄達に簡単な挨拶を交わし「暫く二人にして欲しい」と懇願する。 御免なさい御免なさい。 理由の無い謝罪を泣きながら繰り返せば、赤く腫れた瞳に冷たい掌の感触。柔らかな温度を持ち、涙を拭う。 驚いて顔を上げると、錦の憂いを含む顔が目の前にある。 無様に救われた。 情けなくても幸せだった。

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