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第8話

錦は神様だった。 崇拝の対象だった。 手に届かない相手をうっとりと仰ぎ見ていただけだった。 少しずつ会話をして、気安くなると彼の事をもっと知りたいと思うようになる。何時しか彼を理解したいと感じた。 近付きたいと思い始めていた。 錦の美しさを恍惚交じりに見つめていた自分は、いつからか切なさを感じ、気付けば痛みを味わい始めた。 病後の痩せさらばえた姿を考えなかったわけではない。 錦の美貌は変わらない。目の前で泣いた自分を酷く心配した。 錦の優しさは変わらない。 始めて会った春から、幾度となく過ごした週末でも。 そして再会した今も。 錦は何一つ変わらない。 変わったのは自分だ。

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