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匂い立つ感情の生臭さ

錦と会うたびに彼に夢中になる自分が居た。 傾倒といっても過言ではない。 何時からとか、どの瞬間だとか始まり等――そんなもの分かりはしない。 最初から好意は抱いていたけれど、信仰とも言える思いだった。 明確な色の境目のない夕焼けの空みたいに、グラデーションに染まり深まっていく。分かるのは始まりと現在の思いが随分とかけ離れたものだと言う事だけだ。 きっとこれから先も変わっていく。 憧憬の眼差しで彼を迎えていた春。 少しでも傍に居たくて崇拝に近い気持ちで、待ち続けていた初夏。 別離を覚悟した夏の終わり。 そして、秋に再会したとき張りつめて避けた胸の痛みに恋愛感情を自覚した。 恋をしていたのだと理解したのは確かだった。 劣情を伴う程の濃厚さは無く、すぐに霧散してしまう程淡い物だったが、匂い立つ感情の生臭さは抑えることが出来なかった。 すとんと落ちてきた感覚に疑問なんか感じなかった。 あぁ、そうなのか。そうだったのか。 そんな風に両手を広げて受け止めた。 離れていると辛い。死にそうなほどに苦しくなる。 自分以外の家族と話している姿を見ると、身を切られるほどにつらい。 自分には錦が必要だ。 夏の終わりに思い知った。 彼の側でないと息が出来ない。 錦が居ないと自分は死んでしまう。

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