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第1話

錦が居なくなるなら、もう死んでも良いと本気で考えた。 暗い水底に落ちて緩やかに窒息していたのに、彼の姿を一目見ただけで光が差し込む。地獄に垂らされた蜘蛛の糸。一筋の光。 手を伸ばせばしっかりと絡みつく救いの手。 からからに乾き萎んだ心に血潮が轟音を立て、死にたがりの自分を追い越し苦しみを過去にする。 濁流となる感情に息苦しくなり、その痛みが生きている事実を突きつける。 噎せ返る生の温かさと価値に涙した。 膿み爛れて、少しずつ死んでいったのに確かにまだ自分は生きていたのだと麻痺した四肢が蘇る。 清浄な空気を久々に吸った気分だった。 澄んだ空気か清らかな水のような少年だった。 生きていく為に必ず必要なもの、それが錦だ。 誰よりも錦の側は安心できたし呼吸が楽だった。 始めて人になれた気がした。

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