89 / 218
第3話
渡された箱は大きさの割に重さがある。
社会科見学の行き先を考えれば、硝子細工だろう事は想像に難くない。
皆の所に行く前に、どうしても中が見たかった。
はやる気持ちを抑えて箱を開けると、光沢を放つ薔薇が鎮座している。
茎や葉はなく、花の部分だけを模したペーパーウェイト。
そっと持ち上げると、ひんやりと肌になじむ。
薔薇を包み込んだ掌が、興奮がどくどく脈打つ。
「有難う。大事にするね」
その日は一日中夢心地だった。
家族皆が揃う茶会で、何時もは居心地悪く縮こまっているけど今日は違った。
頭の中には、艶々とした硝子の薔薇が浮かんでいた。
兄達には用意していなかったけど、自分には用意していた土産。
何時も蔑ろにされつま弾きにされる自分が、錦に選ばれたのだ。
錦に選ばれた――錦が硝子工房で自分の事を思い出し、自分の為に選んでくれたのだ。
何て甘美な響きなのだろうか。
生まれて初めて誇らしいと感じた。
ともだちにシェアしよう!