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第4話
浮かれている自分とは違い、錦は相変わらず淡々とした表情で紅茶のカップを傾けていた。
毅然とした眼差し、感情を乗せない声。
完璧な美貌と隙の無い着こなしのスーツ。
内側を見せようとしない強固な壁。
朝比奈家の役割を果たす武装。
錦は誰が目の前に座っていても相手により態度を変える事は無かった。
澄ました表情を見つめながらも、焦った顔や、照れた顔が脳裏に交差する。
――今の錦とは違う。柔らかな子供の顔をのぞかせた瞬間。
きっと、自分が彼を特別と思う様に、彼もまた特別だと感じてくれたのだ。
だから、選んでくれたのだ。
選ばれたのだ。
他でもない、この自分が。
無防備な顔を見せてくれたのも、今と違う幼い素顔もこの家で唯一見せてくれたのは自分だけ。
そうでしょう? ねぇ――。
恍惚とした息を吐き、錦の声を聞く。
錦は特別な存在だ。
好きな音楽、興味のある海外文化に建築、美術の話は自分には興味の無い物ばかりだったけど小さな唇から聞く話は何もかもが輝いている。
錦が特別な存在だから、彼の発する言葉、彼の容姿すべてが輝いているのだ。
そんな特別な人の眼に、自分は映されたのだ。
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