錦の側は、居心地が良い。 錦は時別な存在だから、他の誰とも違う正常な空気を保てるのだ。 親兄弟は攻撃的でいつも傷つけて来る。 それはとても野蛮な事なのだと錦の優雅な振る舞いを見て知った。 クラスメイトはもっと野蛮だ。 夢中になるのはゲームや漫画、芸能人にドラマの感想、友人同士のスキャンダル、恋愛。遊びの話。 流行りのコスメにインスタ映えする飲食に異性。 見ず知らずの誰かからの「いいね」の数で満たすチープな承認欲求。 どこの誰がムカつくとか可愛いとか恰好良いとか。 本当に吐き気がするほど下らない。 話が上手くできない。 声も小さい。 直ぐに口ごもる。 共通の話題が無い。 相手に興味が無く共感する事が難しい。 問われた事に上手く返す事が出来ない。 会話が長続きしない。 だから、自分は人間関係が築けないと思っていた。 話が上手くできないのは、自信が無かったから。 自信を喪失していたのは、家族に何時も駄目な人間だと言われていたからだ。 声が小さく直ぐに口ごもるのも、野蛮な彼らに傷付けられると本能的に恐怖していたから。 共通の話題が無いのも相手に興味が無く共感する事が難しいのも、問われた事に上手く返す事が出来ないのも、会話が長続きしないのも、彼らの話す内容が下らないから。 錦のキラキラと輝く言葉と違い、彼らの言葉は下品で汚らしいから。 何て事は無い。全て生まれ育った環境と周囲の下らない人間の所為だ。 自分は何一つ悪くなかったのだ。