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第1話

何故自分は人間関係を築けない事に後ろめたさを感じていたのだろう。 何故己が劣ってると感じていたのだろうか。 確かに頭は悪い。 こんな簡単な事に気が付けなかったのだから。 でもそれは、父が罵倒するから、母が否定するから、兄が嘲笑するから、姉が、弟が――家族が、何もかも悪いんじゃないか。 この屈辱の積み重なりは家族の所為ではないか。 唯一の救いは錦に知性を与えられ自らの思考を明晰化できたことだ。 もしも彼に会わなかったら、自分の人生は滅茶苦茶になっていた。 何が正解かようやく掴むことが出来た今では、劣っていたのは自分ではなく自分以外の人間だと知った。 全て錦のお陰だ。 錦と彼らは動物と人間のように匂いからして違う。 彼らの肌は生臭さが匂い立つが、錦は清らかな香りがした。 いやでも、人と動物の違いが判る。 汗と脂の混ざる体臭、ツンとした人工の香料。安っぽい香りを纏う彼らは錦とは比べ物にならない位、下品で動物的だった。 それなりに可愛いと持て囃される女子生徒は化粧で飾り付け、恰好良いと騒がれている男子生徒も髪型などの雰囲気で誤魔化してるだけだ。 借り物の羽根で劣る姿を飾り立てるみすぼらしい鴉と大差ない。 パーツ一つ一つとっても、錦の足元にも及ばない。 容姿だけではない、知性も同じだ。 錦と言う本物を見たこの眼には、全てが偽物にしか見えない。 あの輝きには、誰一人敵わない。

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