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第2話

そこでようやく理解した。 愚鈍な自分は今まで気づく事が出来なかったが、目が覚めるような瞬間だった。 その衝撃に眩暈さえした。 錦以外の人間は、皆唯の馬鹿なんだと始めて気が付いた。 親兄弟、クラスメイトも皆全て錦以外は愚かで動物的なのだ。 家族は、自分が望む存在ではない。 親兄弟とは言え、自分を傷つけ目隠しをし盲目にしてから捻じ曲げる。 そんな相手の言いなりに生きるなど馬鹿げている。 自らを犠牲にしてまで、望まぬ相手の為に尽くす事と変わらないではないか。 彼らの期待に応える必要などないのだ。 クラスメイトも家族も錦と比べれば、誰も彼もが下らないのだ。 下品で、低能で、愚かで幼稚。 感情的で暴力的。煩くて動物みたいだ。 下らない人間関係など家庭内でも学校でも築く必要も無い。 その考えに至り、始めて自分を肯定できた。 自身の意志で正当化できたのだ。 錦に齎される受動的な救いではなく、自らの手で自らを救い上げたのだ。 今までに感じた事の無い昂揚と万能感。 開放感に体が軽くなる。 錦が居なければ生きていけないと本能が訴えていたのに。 ようやく気付くなんて、やはり自分は間抜けだ。 しかし、一つの心理に辿り着いた。それだけでも、万々歳だ。 自分には錦が居る。 彼以外は不要だ。

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