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第2話

――恐れるな。 背を伸ばし、前を向く。 毅然と相手を見返す。 そうする事で彼のようになれる気がした。 強靭さが溢れる凛とした横顔。 感情を完全にコントロールする理性。 ――錦。 名前を思い浮かべる。 この世で最も美しい少年の名前は、形の無いお守りだった。 人の眼を見つめ返すのは慣れず、怖くて反射的に反らしたくなる。 何時もみたいに逃げたくなる。楽になる道を選びたくなる。 怒られないように機嫌を取るために、自分が悪いと進んで罰せられる。 鞭打たれることを望む。 痛くて苦しいけど、そちらの方が楽だから。 駄目だ。それでは、駄目だ。 逃げたくなるのを耐えて、ひたりと相手を見据え言葉を探す。 錦は、こんな風に怖がったりはしない。 錦ならどう振る舞う?  錦なら――……。

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