104 / 218
第1話
錦は一言も口を挟まず、黙って話を聞いている。
瞬きを繰り返す度に、緩やかに睫が揺れるのみで表情は何一つ動かないままだ。
彼は元々表情豊かな方ではないので、特に気にはしなかった。
ただ、熱心に聞いてくれているんだなと嬉しくなる。
「退院祝いにパーティーとかしたの? 錦君の為なら百人くらいあっと言う間に集まりそうだね」
冗談交じりで言葉を続ける。
錦に許されているからと、多弁になる。
話を聞いてくれる相手が錦だと思えば嬉しくて、調子に乗っていると分かってはいたが喋り続けた。
「でも錦君、騒がしいの好きそうじゃないね」
笑いかけ言葉が一旦途切れると、錦はようやく口を開く。
やはり顔には何の表情も浮かんでいない。
ともだちにシェアしよう!