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第1話

錦は一言も口を挟まず、黙って話を聞いている。 瞬きを繰り返す度に、緩やかに睫が揺れるのみで表情は何一つ動かないままだ。 彼は元々表情豊かな方ではないので、特に気にはしなかった。 ただ、熱心に聞いてくれているんだなと嬉しくなる。 「退院祝いにパーティーとかしたの? 錦君の為なら百人くらいあっと言う間に集まりそうだね」 冗談交じりで言葉を続ける。 錦に許されているからと、多弁になる。 話を聞いてくれる相手が錦だと思えば嬉しくて、調子に乗っていると分かってはいたが喋り続けた。 「でも錦君、騒がしいの好きそうじゃないね」 笑いかけ言葉が一旦途切れると、錦はようやく口を開く。 やはり顔には何の表情も浮かんでいない。

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