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第3話

「特別な事じゃない。当り前のことだ」 「でも」 「何か勘違いしているようだが、努力さえすれば出せる程度の成果は誰だって手にできる。何一つ特別じゃない。俺はただ義務を果たしてるに過ぎない」 「誰もが皆結果を出せる訳じゃないよ」 「それは、努力を惜しんだ奴の言い訳だ」 心底下らないという響きが声音に宿っていた。 何も言い返せなくなる。彼は正しいのだ。 ――何も特別な事ではない。 ――誰にだって手にできる。 ――義務を果たしているだけ。 誰でも錦と同じ様になれると言う風にも聞こえた。 ざわつく。嘘だ。錦は、嫌、違う。 彼は、まさか自分の価値を理解していないのか。 でも、どうして。 誰よりも聡明な彼がそんな事言うのだろう。 「最後の質問だが、俺は幼少期から入退院を繰り返している。だから今回の退院を態々祝う必要はない」 「面会制限になる程大変だったって聞いたよ」 危篤状態でもあったのだ。 それなのに、彼は悲壮な表情一つ浮かべない。 「――死亡退院でなければ問題ない」 錦自身の事の筈なのに。まるで知らない誰かの話をしているようだ。 「心配し退院を心より祝ってくれた事には大変感謝している」 社交辞令だ。 あぁ、そういう事か。 錦の毅然とした姿に、少し悲しくなった。

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