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第4話
門扉の前には朝比奈家が所有する車が停まっていた。
傍らに立つ運転手がこちらに向かい深く頭を下げる。
錦の歩調が少しだけ早くなり、あっという間にお別れの時間だ。
さようならを言うのが憂鬱で、何時もこの瞬間が苦手だった。
短く挨拶を交わした後、後部座席に乗り込んだ錦を見送る。
彼は手を振るでも車窓越しに見返す訳でもない。
一抹の未練も感じさせない所作で、後部座席に収まっている。
錦は変わらない。距離は確実に縮まっている筈なのに、やはりどこか遠い。
穏やかな昼下がりに和やかな時間を過ごそうとも、兄と議論に興じても帰る時はいつも熱を感じさせない振る舞いだ。
未練を見せず再会を願う言葉も社交辞令で。こうして、車に乗れば挨拶一つで終わる。
誰かとの繋がりを乞う訳でもなく、誰も望まない。
両手では持ち切れない程の多くの物を持っていながらも、望む物は何も持たない。恵まれていながらも空虚。
孤独な者特有の無機質さがそこにあった。
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