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第6話
――死亡退院でなければ問題ない。
自尊心の欠片も無い言葉だった。
あの錦からそんな言葉が出て来るとは思いも寄らなかった。
冷やかに調律された声には感情も温度も宿っていない。
闘病中の経過など一切省みず、生きていた結果だけを重要視していた。
死亡退院でなければ問題ないなんて、誰よりも尊ばれるべき錦が自身をそう言って退けたのだ。
そんなの、あんまりだ。
思い返し改めて衝撃を受け気分が沈む。
いつ死んでもおかしくない程に重篤な状態だったはずの彼は、それでも回復し無事退院できた。
それだけでも祝福に値する。その価値はある筈だ。
苦しんだ分だけ慈しむべきだ。
どんな風に生きれば、錦の様な強さを身に付けられるのかと考えたことは有った。
彼の強靭な精神の行きついた先にあの言葉があるとしたら、彼の特別故の孤独とはどんなものなのだろう。
今まで考え無かったことが頭に付いて回る。
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