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第7話

――錦が夏から秋にかけて入院した時を思い出す。 錦ともう会えないと本気で考えていた自分は世界の終わりを迎えた気持ちだった。 だから彼の顔を見た時、人目も憚らず泣いた。 錦は酷く驚き、未知の生物を目の当たりにしたかのような不思議な表情を浮かべた。 初めて会った時も自分は泣いていた。 それどころか、家族に責められ目も当てられぬ醜態を晒していたが、錦は戸惑いも驚きも浮かべず、また憐れみも見せない。 ただ静かな表情であった。 でも、あの時は。 秋に再開し二度目の涙を見て酷く焦っていたし、何故泣くのかがわからず困っていた。 聡明な錦が理解できず、嬉しくて泣く人は初めて見たと言ったのだ。 涙の対象が彼自身と知り、さらに戸惑った。 思えばそれは彼自身が心配される事を知らず、自分の為に泣く誰かを想像できないからではないか。 彼が居なくなれば惜しむ人間は多くいても、悲しみに暮れる人間はどれくらいいるのか、きっと彼は理解していた。 だから、あんなに驚き戸惑っていたのだ。

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