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第8話

彼の入院時と、退院後の状況に僅かにだが違和感は感じていた。 錦自身と彼の評価、そして彼を取り巻く環境に釈然としない事が多々あった。 朝比奈本家の嫡子。優秀な男子。 それを差し引いても、錦はとても素敵な子なのだ。 誰の目から見ても彼は、親にとって誇りであり自慢の息子であると予想された。 一粒種とも言える彼の身に起きた事を思えば、両親は身が引き裂かれるような思いをするものだろう。 夜も寝れない程に心配して、苦しむのが自然だ。 生きるか死ぬかの我が子の悲劇に、酷く心を痛めた筈なのに。 錦は入院中、たった一人で過ごしたという。 面会制限があったとはいえ、洗濯物の回収や着替え等を使用人が届ける以外は誰一人として見舞うものは居なかった。 彼の両親は一度も錦に会いにはいかなかったのだ。 治療の経過や検査結果は、代理で秘書が立ち合い報告をしていたらしい。 退院後も、使用人が一人付き添っただけと言うではないか。

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