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第9話

錦は確かに大事にされているのだろう。 ただそれは肉体に宿る朝比奈家の嫡子と言う価値に対する奉仕だ。 付加価値と錦と言う個を天秤にかけた時、大人達の間では天秤はどちらに傾くのか。 少なくとも水平を保って居られるとは思えなかった。 どんなに大人びていても彼はまだ子供で、当然一人で生きていける筈も無く保護者の存在は必要不可欠だ。 それでも誰かに庇護される朝比奈 錦と言うのは彼を見ると何だか考えられない。 誰かを頼る姿が想像できなかった。 誰かに守られてる姿もまた同様に信じる事は出来なかった。 彼は完成されていたし、何もかもが完璧だった。 もしかしたら、完璧ゆえに心配される事自体が――彼を知る者からすれば――有り得ないのかもしれない。 『心配してくれたのか』 死ぬ程心配した。本当に死ぬのだと思った。事実死にかけていた。 錦が居ないなら、いっその事死んでも良いと思った。 だから、心配なんて当たり前だと思っていたのに。 疑問を投げるのは、きっと錦にとっては当たり前では無かった。 心配されたと考えつかず、流した涙を彼の尊さに結びつけることが出来ないのは何故か。 考えればおのずと答えは出る。

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