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楽園を模した地獄

そこまで考えて、羞恥にかられる。 自分の事しか考えていなかったと思い至り、罪悪感を覚える。 孤独を特別視し憧れ、毅然とした彼に好意を寄せた。 何時間見ても飽きない、どんな表情をしても美しい。 強い眼差しに魅せられて夢中になった。目が合うたびに胸が跳ねた。 彼の言葉が全てだった。 俯いてばかりの自分とは違う上を向く彼に憧れた。 錦と二度と会えないと思って悲しみ、再会を喜んだ自分にあっけにとられた表情を見せた。 錦を心配したと泣いた自分を酷く驚いた顔。 泣いた相手にどうすれば良いのか分からず困った顔。 流した涙が錦自身の為と知り浮かべた釈然としない、あどけない表情。 無垢な瞳。戸惑いながらも、じんわりと血色した頬。 自分だけに見せてくれた表情だったから、嬉しかった。 彼が理解できなかったのが分からなかった。 齟齬に気付かず酷く喜んだ。有頂天になっていた。 でもそれは、とても悲しい事なのだから本当は喜んではいけない事だったのだ。 彼は、孤独ではない彼自身を想像できない。 大勢の中に居て孤独でも、錦は寂しがることは無いのは、憧憬の的でありながらも孤独で有り続けてそれが当り前になったからだ。 何もかもが素晴らしいと感じていた、錦の世界を頭の中で想像し繋ぎ合わせてみると、窒息しそうなほどの苦しさを覚える。 心配してくれたのかと目を丸くした。 死亡退院でなければ問題ないと嘯いた。 誰にでも手に入れられるものだと冷やかにこちらを見る。 グルグルと掻き混ぜられる。コラージュとなる感情。 錦の言葉が頭を離れない。 好意の目を向けられて、人の中心に居るのに周りに何人いようと、独り。 横を見ても後ろを見ても、皆笑顔なのに理解者は居ない。 それはきっと、楽園を模した地獄に他ならない。

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