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第1話

どんなに紳士的に振る舞っても、どんなに上品に微笑んでも皆錦が心を許すに値しない相手だった。 何もかも浅はかなのだ。 誰もが皆、錦に相応しい聡明さに欠けている。 だから、錦は孤独なのだ。 皆が愚かだから、錦の表層に囚われてばかりで何一つ彼の真実を見抜けなかったのだ。 だから錦は誰も認めることが出来ないのだ。 実の親にさえ錦は期待をしていない。 存在の根源的許しである生みの親に対しても乾き切った視線を向けざるを得ない。彼はクラスメイト達を教室内での付き合いだけでも良いと言い切った。 下らない友人、下らない話、錦にはきっと馴染まない。 親とのコミュニケーションも特に望んでいない。 錦の価値を尊重しながらも、錦自身は尊重されない。 彼がもう少し愚鈍であれば、あるいは理解者が居れば自尊心の宿らない言葉など口にはしなかった。 ――誰も錦を理解できなくても聡明な彼の瞳は真実を見抜く。だから、彼は誰にも心を許さない。 一人が当り前の錦。 どこまでも孤独な錦。 彼が望んで孤独でなかったとしたら。 孤独を好んだのではなく、ただ受け入れていただけだとしたら、ならば彼もまた、自分と同じ寒々しい景色を見つめていたのだろうか。 錦の失望と絶望は想像を絶する。 家の恥だと詰られ、駄目な人間だと侮られ、常に否定されて家族に疎まれている自分と、優秀で有りながらも評価や干渉を望まず、望まれない他人行儀な家族関係の錦。 屈辱と嘲りを積み重ね生きて来た自分と、無関心と孤独を折重ねてきた錦。 劣等感を埋め込まれた自分は周囲の所為でつまらない人生を歩んできた。 理解することを放棄した周囲が麗しい理想を崇める。誰も彼を見抜こうとしないから、自尊心を欠いてただ孤独に生きる錦。 自分と同ではないか。 錦も、望まぬうちに周囲に捻じ曲げられていたのだ。

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