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第2話
自室に戻り、手の中で硝子の薔薇を弄ぶ。
硝子が曇るのをぼんやりと眺めていると、脳内に彼の姿が瞬く。
ひんやりとした錦からの贈り物は、体温を移し掌に馴染む。
「こんな風に錦との温度差も無くなれば良いのに」独り言ち、親指で花弁を撫でた。
錦は――自分の事をどう思っているのだろう。
鬱屈とした日常から脱して、何もかもが希望へと反転し浮かれていた。
錦に選ばれたからだ。
そのはずなのに、錦は冷ややかなままだ。
何時までも変わらない休日の帰り道。
此方を振り向かない車窓越しの横顔。
何故錦は自分を救い上げてくれたのだろうか。
一度は探すことを放棄した答えの在りかを思い返す。
錦に選ばれた理由を深くは考えなかった。
ただ、選ばれたのが全てだと思っていた。それで充分だったから。
盲目的に錦を信じていたから答えを探す必要など無かったのだ。
あくまで己の視点からみて、錦の行動が全てだった。
ならば視点を変えてみれば、どうだろう。
錦は何を思い、手を差し伸べてくれたのだろう。
その答えが分かれば、恐らく錦との関係が変わる鍵になる。
錦と自分は似ても似つかない。
性格、年齢容姿、家柄。
傅く立場と傅かれる立場。
仰ぎ見る側と、俯瞰する側。
全てにおいて天と地の差がありながらも――共通点は――表裏一体の孤独の中に在った。例えるなら一枚のコインに近い。
傷付けられる事に苦痛を感じれるか、無関心故の麻痺か。
自分は前者だが、錦は後者だ。
その違いだけ。
彼との共通点を見つけ彼との孤独を共鳴しながら、一つ一つ拾い上げて行けば答えに辿り着ける。彼のテリトリーに踏み込むことを許された気分になる。
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