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第4話
錦が錦である限り彼の理解者になりたい。
家柄など関係ない。
君は誰よりも尊いのだと。それを、知って欲しい。
知る事により孤独を癒してほしい。
錦自身が彼を理解したいと思う人間の存在を知れば、彼は孤独からの脱却を計れる。そうすれば二度と己を軽んじる事はしないだろう。
錦は残骸になりかけた自分に熱を灯した。
命そのものを吹き込んでくれたのだ。
錦に守られて生かされた自分は、彼を崇拝した。
強烈な憧憬を抱いた。
身を焦がさんばかりの思いで、彼がもし望むなら何もかも奉げても良いと考えた。
それなのに何一つ奉げる事が出来ていない。
慈悲を受け取るばかりで、何も返していない。施されているばかりだ。
錦は何かお返しがあるとは期待はしていないだろう。
施す側と施される側でしかない。期待されるような関係ではないのだ。
それが築けなかったのは、理解者になりたいと夢見がちに彼を見つめてばかりの怠慢故だ。
理解者になれるのではないかと淡く期待しながら、何一つ形にしていないからだ。
夢想するばかりで実行しないのは、本気で望んでいないのと同じだ。
錦に病床で思い出されなくても仕方がない。
未練になれないなら、やはりその他大勢と同じである。
――それだけは、嫌だ。
もしも彼がまた倒れた時、きっと自分の事など歯牙にもかけない。
錦は死の間際でも、誰も欲する事の無い彼は誰にも未練を抱かない。
思い出しても貰えず、拠所にもされない。
手を伸ばした時に握り返される事を期待しない。
このままでは手遅れになる。
錦への一本通行な感情は、帰る場所を失くしていく。
それだけは嫌だった。
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