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第5話

錦に救い上げられたなら、錦の為に存在したい。 何故、錦が車に乗るまでの間、彼の言葉を否定しなかったのだろう。 君は誰よりも尊いとたった一言でよかった。 それを伝えることが出来たなら、錦にとってはいつもと違った帰り道だった筈だ。さっそく数時間前の事を後悔しながら、無力感に囚われる。 きっと今なにもしなければ何度も後悔する。 まだ、間に合う。手遅れになる前に今度こそ後悔しない為に、正しい選択をしなくてはならない。 今が分岐点だ。 与えられたチャンスなのだ。 ここで立ち止まれば後悔する。 手を伸ばさなかった事、欲しなかったことをきっと死ぬまで後悔する。 錦に関する事で、何一つ諦めたり後悔をしたくは無かった。 手の中の薔薇が酷く重く感じた。 ――錦が選んでくれたのだから。 それなら、きっとまだ希望はある。 錦の未練になれる可能性がある。 他の誰とも自分は違う。自分だけは違う。 その自覚と自負で他の誰にもできない事が、自分には出来ると自らを信じてみる。 彼の唯一になれる、その為なら何でもしよう。 他の誰にも与えられないだろう資格が自分にはある。 錦のお陰で世界が変わったのだ。 なら、今までのようにただ仰ぎ見るのではない。 同じ立ち目線で生きてみたい。

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