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第6話
悪い事は重なると言うのは本当だ。
最悪な事態は茶室に席入り後に起こった。
――亭主の挨拶が始まり間もなくしての事だった。
正客に兄、次客に錦、三客四客と席が続き、茶道歴の長い姉が末客に落ち着く。
何故か茶室に入った時、兄と錦、姉は少し驚いたような表情をしていた。
投げ入れされた茶花を織り込みながら、ユーモアを交えた挨拶に一気に緊張が解ける。
「今の時期の茶花に最も良いと思ったんです。貴方はどう思いますか」
「錦君はどう思う。床の間に栗だよ栗。禁花と分かりながら平気で床の間に置くなんて有り得ない。私は最悪だと思うね。招かれた彼に失礼だ。錦君に謝りたまえ」
「……茶会なんですかこれは。もはや茶会には思えないのですが」
茶室に入ると同時に兄たちが驚いたのは、栗の実があったからだ。
茶道では飾ってはいけない物らしい。
亭主の言い訳と兄と錦のやり取りに、ついに耐えきれないと言う風に弟が笑いだす。
驚いたことに、咎める者はいない。
亭主は兄と大学時代の同期であり、茶会にしては随分と砕けた空気だった。
想像とかけ離れた茶会は、作法を知らなくても楽しめそうだ。
皆の緊張が解れて、笑いがさざ波の様に生じる。
堅苦しさは無く、ほっとした矢先だ。
「あっ」っと小さく出した声は自分の物かそれとも家族の物か。
鼻腔にぬるりとした感触に、酷く嫌な予感がした。
内外の寒暖差から、情けなく鼻汁を垂らした方がまだましだった。
咄嗟に手で押さえた時にはもう遅い。
指を濡らして、生暖かい血が次々と落ちていく。元々鼻の粘膜は弱かったが、ここ最近出血することは無かったから油断していた。ぱたぱたと音を立て、畳の上で弾けるのを茫然と見つめた。
「大丈夫ですか」
亭主の声に我に返り頬がかっと熱くなる。
現実逃避しかけていた頭が遅れて羞恥を覚える。
どうしよう、どうしよう。こんな時に。
何て事だ。よりによってこんな時に鼻血が出るなんて。
ハンカチを出そうとするが、手も血で汚れベタベタとして気持ちが悪い。
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