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第6話

良い事が沢山ある。 そんな風に今まで考えたこと無かった。 海輝の顔が脳裏によぎる。 緩みそうになる口元を引き締めた。 今年の夏休みは、海輝と旅行に出かけるのだ。 四泊五日の旅行に誘われて、錦は頬が熱くなるのを覚えている。 嬉しかった。 以前錦が蛍を見たことが無いと話したら、いつか見に行こうと海輝は笑った。 だから今月に入り「夏休みになったら帰るから蛍を見に行こう」と誘われたときは酷く驚いた。 錦はすっかり忘れていたのだ。 何となく口にした言葉の延長であり、ただの会話の一部に過ぎなかった。 海輝は約束をしたじゃないかと、受話器の向こうで笑っていた。 少し遠出する程度かと思っていたら旅行を計画してくれたらしい。 源氏蛍の見頃は終えているが、平家蛍が八月に見頃だからそれを目的に蛍狩りの名所を調べていたとも言う。 蛍観賞だけでは無い。 洞窟にも行こう誘われ、錦は浮かれた。 旅先から帰る途中には、恐竜展示会にも立ち寄るらしい。 実物大の恐竜模型が数多く展示されていて、中には動きまで復元した模型が有るとのことだ。想像も出来ない迫力だろう。 とても楽しみだ。 『怖いかもしれないから錦君抱っこしてあげるね』 ――俺に怖い物はないので、恐竜くらいは大丈夫だ。 『やったぁ。じゃぁ、僕が怖いから抱っこさせてね』 ――何がやったぁだ。馬鹿。 冗談交じりの会話をしながらも、ふわふわとした気持ちで過ごした。

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