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第15話
運転手は、皮を剥き芯を取り半分にカットしたパイナップルも売り場に並んでいるが、必ず一口大にカットした物を選べと念を押してくる。
食事制限をかけられた食物の中にパイナップルが有った。
形状が複雑で、洗浄が十分にできないからだ。
包丁を入れるのも上手くできるか分からないので、運転手のアドバイス通りにした方が良いだろう。
「いえそう言う意味ではなく、出来れば包丁を持たない方へ」
「刃物は扱いに気をつければ問題ない」
「いえ、扱う方の腕前に不安が」
「問題ない。後は、ゼラチンか。板より粉だな。この程度なら俺にも分るぞ」
「サクランボとかなら刃物を持つ必要がありません。いかがですか錦様」
「サクランボならパイなども良いかもしれない」
冷たい菓子ばかりでは芸が無い。
レシピ通りに作るのだから、失敗は無いだろう。
買い物を行くのも何だかわくわくする。
「錦様は本当に海輝様のことがお好きなのですね」
「は?」
「海輝様もまた錦様のことを大事にされているご様子」
微笑ましいと運転手は満面の笑みを浮かべる。
「海輝なんて別に好きじゃないが」
顔を真っ赤にして思わず言い返すと、珍しく動揺した錦に運転手は嬉しそうにうなずいた。
「恥ずかしいことではありませんよ」
「いやっ、別に、恥ずかしいとか嫌いとかではなくて」
「素敵なことです」
運転手は朗らかに笑う。
頼む。父にだけは報告してくれるな。
内心そう願いながら目的地が近づいて頭痛がぶり返す。
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