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「再会」

迎えは不要と言い、車から降りると一斉に蝉の鳴き声が耳に飛び込む。 幾重にも重なり四方から迫る音は我に返ると、渦の中に佇んでいると錯覚してしまう。耳障りな音に頭の中を掻き回される。 多くの人が、この不快な音を当たり前のように聞き流して日常を送っているのだ。改めて考えれば狂気じみている。 渇いた風が肌を撫でる。 吸う息も吐き出す息も熱い。 体の中から腐りそうだ。 これだから、夏は嫌いだ。 海輝が居なかったら夏などこの世から無くなれば良い。 不可能な事を考え続けるのは非生産的だ。 待ち合わせ時間を確認する。 ――待ち合わせ時間は十五時。現在の時刻は十四時三十分。 指定された場所までの移動時間を考え歩調を早めた。

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