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第4話

それでも紗江は友人に近い存在だったから、彼女のその後が気にならなかったかと言えば嘘になる。 しかし――薄情かもしれないが――記憶は時間と共に薄れる。病状を心配することはあったが、一切の情報は入らないまま時が経てば思い出す事も徐々に無くなった。 殆ど忘れて居たのだ。 そんな音信不通の相手から、突然手紙が届いた。 一方的な待ち合わせの手紙だった。 約束をしていたわけでは無い。 断らなかったのは旧懐の情で再会を望んだからでもない。 「会いたい」と書かれた一言に込められた切実な願いが、どこか不穏に伝わる。季語もまともな挨拶も無いそれは、返事はいらないと付け加えられていた。今日が約束の日だった。錦が此処に来なければ紗江は一人待ち続けたのだろうか。 「なに?」 ――何が目的なのだろうか。 にっこりと笑うと細い瞳が更に細くなる。 招き猫に似た顔も変わらない。 ただ以前は笑うと盛り上がっていた丸い頬が、今は鋭い線を描く。 違和感の正体は大人びた容姿か、それとも痩せて青白い顔か。 この、暗い眼差しか。 紗江は常に控えめな笑顔を浮かべる少女だった。 肥えているわけでは無いが、全体的にふっくらとした体型の少女だった。 性格はおとなしく、夢見がちなところが有った。 紗江は頭からつま先まで清楚で可憐、所謂女の子らしい女の子等と世間で称される、衣服や小物、雰囲気を好んだ。 秋庭家に足を運ぶ錦が常にスーツを着ているように、紗江は常に可憐な装いをしていた。 小花の散る華やかなワンピースに、繊細なレースや刺繍のブラウス。 胸元には、コサージュやカメオ付きのリボンを常に付けている。 ふわりと広がる柔らかなフレアスカートの足下は太いヒールのストラップパンプス。足下も衣類同様に可愛らしいデザインが多かった。 長い髪の毛は無造作に下ろすことは無く、丁寧に編み込みリボンやシュシュ、飾りゴムなどで装飾をしていた。 頭から足の先まで人形のようにデコレートした少女。 それが紗江に対する錦の印象だ。 ――こんなにも変わるものなのか。 目の前の紗江は髪の毛を無造作に纏め、少年の様な飾り気のない服を着こなしている。

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