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第8話
「色々あったけど、でももう大丈夫」
「そうか」
疑問ばかりが重なる。
二年ぶりに突然の再会を願ったのは、紗江の言う「大丈夫」な状態になったからなのか。言葉通りに回復していると判断して良いのだろうか。
この笑顔は、本当に紗江の憂いが晴れた延長にあるものなのか。
紗江は、何故――
「錦君。来てくれて有難う」
「こちらこそ手紙有難う。驚いたが嬉しかった」
「うん」
「返事は不要だとあったが、もしも俺が来なかったらどうするつもりだった」
「どうもしないよ。約束を一方的に取り付けたのは私だもの。錦君は遅刻する様な子じゃないから、来なかったら少しだけ待って適当に帰ったよ」
池を眺めて待ち続けた背を思い出し、錦は眉根を潜める。
熱中症になる可能性がある。呆れたと言うのが本音だ。
流石にそれは馬鹿では無いのか。
「だって、返事はいらないって書かないと錦君は絶対返事するでしょう?」
紗江曰く、錦に断られるのが怖くて敢えて返事は不要としたらしい。
どちらにせよ、待ちぼうけする羽目になる。
来るか来ないか分らない相手を待つ方が、辛いのでは無いか。
錦の疑問に紗江は小首をかしげる。
「断られるよりは、返事が無いままここで待ってこない方が良いよ」
「辛辣なことを言うが、その行動に意味はあるのか?」
紗江は怒るでも悲しむでも無く笑顔を浮かべたままだ。
その顔を見て、ふと彼女は正気なのだろうかと疑問が浮かぶ。
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