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第9話
「だって返事が無ければ、理由を色々考えることができるでしょう」
――紗江はこんなことをいう少女だったか。
大人しくて気弱だった。あまり自分の意見を口にせず控えめな性格ではあったが、無邪気で素直だった。こんな風に悲観的な事を言わない少女だった。
現実を拒絶する人間特有のふわふわとした笑みに、喉が忘れていた渇きを訴える。
「断るならちゃんと理由を教えてくれるのは分ってる。でもね、理由を知らない方が傷つかないかもしれないでしょう」
「今日が駄目でも別の日で予定を合わせれば良いじゃないか」
「……断られる可能性の方が怖かったから」
紗江の声が掠れる。錦は当惑した。
まだ、彼女の精神は酷くデリケートな状態らしい。
ダメージ回避をする方法は最初から望まない結果を予測しておくこと。
彼女は約束を断られる事が前提だったのだ。
――この程度で傷つく等錦には理解出来なかった。
縋りたかったのだろうか。
何故、そこまで思い詰めてるのか。
二年前に何があったのだろうか。
今日まで何を考えて過ごしていたのか。
紗江は俯いたまま唇を閉ざす。
何かを話さなくてはならないと言う決意は感じていた。
唇を開いたり閉じたり言葉を吐き出そうとするが、唇の外には押し出されない。
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