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第11話

「錦君と話がしたかった」 奇妙だった。 何が奇妙と言われれば、有りと有らゆる事が奇妙だ。 形をなさない不安が像を結ぶ前に崩れる。 紗江は何がしたいのだろうか。意味が分らない。 意味が分らない物は、気持ちが悪い。 「たいして話をしてないだろ」 「そうだね」 ――手紙で呼び出したのに最終的には何も言わない選択をしたようだ。 彼女の兄の名前を出せば共通の話題が出来ると思ったが、無い未練を見せるようで止めた。 連絡を取ることが御法度の相手に態々手紙まで出したのに。たいした会話もせずに満足するものなのだろうか。 まさか本当に顔を見ただけで気が済んだとは言うまい。 彼女は何を得たというのか。

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