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義兄の奇行

余程無礼な振る舞いをしない限りは嫌われることは無い。 錦に対し紗江がある程度の好意を抱いている事は知っていた。 破談になってから長らくあっていない。 呼び出した理由が、単純に未練が有ったからとは思えなかった。 態々錦を相談相手に選ぶ位に困ったことがあったのだろうか。 敢えて錦を選んだのであれば――解決できるかどうかはさておき――身近な人間には言えない何かがあったのではないか。 しかし肝心な本人が口を開かないのであれば、これ以上の詮索は無用だ。 どうしたものか。 このまま挨拶をし暇しても良かったが、出来なかった。 錦の目から見て、あまりにも紗江が不安定なのだ。 「あぁ、そうだ。錦君。これ貰ってくれる?」 バッグから取り出した封筒を錦の目の前に差し出す。 はがきサイズの洋形封筒は手にすると、僅かな厚みがあった。 紗江は見舞いの礼だと言った。 父の秘書が見舞いの品を贈っていたのは報告で知っていた。 紗江は面会を断り続けたことの謝罪と、見舞いの礼を錦に直接言えなかったのを気に病んでいたのだ。 まさか、そのことだけに呼び出したのかと考えたが、それならもっと早くに切り出していたはずだ。 「たいした物じゃ無いんだけど、家で開けて」 照れくさそうに笑い「そう言えばね」と続く言葉に錦は驚く。 「錦君のお義兄様がね一度お見舞いに来てくれたんだけど、ちゃんとお礼言えて無くて、本当にごめんね」 今日一番の衝撃を受け思わず彼女の顔を見る。

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