185 / 218
義兄の奇行
余程無礼な振る舞いをしない限りは嫌われることは無い。
錦に対し紗江がある程度の好意を抱いている事は知っていた。
破談になってから長らくあっていない。
呼び出した理由が、単純に未練が有ったからとは思えなかった。
態々錦を相談相手に選ぶ位に困ったことがあったのだろうか。
敢えて錦を選んだのであれば――解決できるかどうかはさておき――身近な人間には言えない何かがあったのではないか。
しかし肝心な本人が口を開かないのであれば、これ以上の詮索は無用だ。
どうしたものか。
このまま挨拶をし暇しても良かったが、出来なかった。
錦の目から見て、あまりにも紗江が不安定なのだ。
「あぁ、そうだ。錦君。これ貰ってくれる?」
バッグから取り出した封筒を錦の目の前に差し出す。
はがきサイズの洋形封筒は手にすると、僅かな厚みがあった。
紗江は見舞いの礼だと言った。
父の秘書が見舞いの品を贈っていたのは報告で知っていた。
紗江は面会を断り続けたことの謝罪と、見舞いの礼を錦に直接言えなかったのを気に病んでいたのだ。
まさか、そのことだけに呼び出したのかと考えたが、それならもっと早くに切り出していたはずだ。
「たいした物じゃ無いんだけど、家で開けて」
照れくさそうに笑い「そう言えばね」と続く言葉に錦は驚く。
「錦君のお義兄様がね一度お見舞いに来てくれたんだけど、ちゃんとお礼言えて無くて、本当にごめんね」
今日一番の衝撃を受け思わず彼女の顔を見る。
ともだちにシェアしよう!