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第1話
「初耳なんだが」
「え? そうなの? じゃぁ気を使ったのかな」
それは紗江に対してか錦に対してか。気を遣ったと言うなら後者だろう。
ただし事実としては恐らくどちらでも無い。
見舞いであれば破談前後の筈だ。
それならば、朝比奈家からの指示で様子見をした可能性が高い。
何を話したか気になるが、言葉を飲み込んだ。
時期的にも精神状態が良くなかったのであれば配慮が居る。
海輝が錦に話さなかったのだから、紗江から聞く必要はないだろう。
惜しむ気持ちが顔に出ていたのか、いたずらっ子の笑みを浮かべた紗江に「気になる?」と聞かれ思わず頷く。
去年の秋の暮れに、海輝は父の代理で秋庭家に足を運んだらしい。
錦と出会って間もない頃だ。
「お見舞いに来てくれた海輝さんの前で過呼吸起こしてさ」
面会が出来る状態だったのかと疑問を抱くが、海輝が何を話したかの方が気になる。当時はまだ錦の婚約者であった。そんな少女と面会していたという事実に何だか恥じらいを感じる。海輝は何を思ったのだろう。
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