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第1話
口を閉ざしていた数分前の紗江とは打って変わり、楽しげに話をする。
行きたい場所、描きたい絵、文化、芸術、食事など。
張り付いた笑顔の口元だけが独立した生き物のように動く。
「もし帰国することが有ったら連絡をくれ」
「怒られないかな」
「その頃には、ある程度の年月も経過してるし、友人としてなら会っても問題ないはずだ」
「そっか」
紗江の手から飲み終えた紙パックを取り上げてダストボックスに落とす。
「紙パックのジュースじゃなくてちゃんとした店で茶でも飲もう。紗枝が好きそうなカフェを探しておく」
すると少女は笑う。
「お酒飲める年になってるかもね」
「そうか。じゃぁ、酒でも飲むか」
「錦君、体のこともあるでしょう? アルコールはよくないよ。コーヒーにしよう」
「コーヒーより紅茶が好きだから紅茶にしよう」
「じゃぁ、おいしい紅茶にしよう。イギリス式のアフタヌーンティーが良いな。真っ白なティーカップで紅茶を飲むの。綺麗な花が飾られた店でお話ししよう?」
紗江が懐かしそうに眼を細める。
秋庭家では何時も真っ白なティーセットと真っ白な百合が飾られていた。
「そうだなそれが良い」
今よりも大人になった紗江が、無邪気に笑いカナダでの土産話をするのだ。悪くない。その頃には、紗江の削がれた頬はふっくらとしたものへと戻っているだろう。
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