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第2話

「そろそろ帰ろうか」 こちらが別れの挨拶をする前に、紗江が立ち上がる。 「錦君」 「何だ」 紗江が何か言いたげに口を動かすが、最後は笑みに変わる。 迷い最後に諦めた様に笑う姿に、何ともいえない不穏さが漂う。 錦は無言で紗江の言葉を待った。 「私、錦君と出会えてよかった。私ね、錦君の事が大好きだったんだ」 不意打ちに思わずぽかんとした錦に噴き出して、つぎに少しだけ悲しそうな表情を見せる。 錦の知る無邪気な少女とは別人の暗く大人びた眼差しに居心地が悪くなる。 「紗江」 「錦君、元気でね」 背を向けた紗江の髪の毛がなびく。 強い陽射しの中で彼女は振り向くことは無い。 今度こそ別れの挨拶だった。

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