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第3話
一度は立ち上がったベンチへ再度腰を下ろし、暫く陽射しに輝く池を眺める。
紗江の姿はもう何処にも無い。
錦は渡された封筒を開き中を見た。
葉書サイズのメッセージカードに、柔らかな色彩の絵が描かれている。
描かれた薔薇と蝶の細工が美しい小物入れには見覚えがあった。
錦が紗江に贈ったものだ。
輝くクリスタルガラスが埋め込まれたそれを、紗江は大袈裟なほどに喜んだ。
閉ざされた小物入れの蓋の上に置かれた紫の花は、赤いリボンがかけられている。まるで捧げ物だ。
そう言えば、この花を学校の花壇で見たことがある。
クナウティアだ。
確か園芸ラベルにはそう記されていた。
細部までこだわって描き上げた絵に感心した。
小さな花弁の波打つ様や、盛り上がる筒状花の一つ一つまで細かく描き込まれている。箱の下にまで流れ落ちる長いリボンは光沢まで表現されていた。
リボンには英語で文字が書かれている。
――I have lo……。
結び目で文字が途切れているので読める文字はここまでだ。
蝶々結びで巻き込まれた文字の続きは何だろう。
ふと紗江の言葉を思い出し「Ihave loved you(貴方の事を愛していた)」かと考える。
過去形で有ることから、今後は前向きに新しい人生を歩むのだろう。
悪いことでは無い。
錦は特に真剣に考えることは無く、ベンチから立ち上がった。
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