196 / 218

第1話

花の絵を写真立てに飾った翌日に錦宛てにまた郵便物が届いた。 差出人は昨日と同じ人物川田 典子こと秋庭 紗江からだ。 消印は昨日だ。 錦と会う前か会った後かは分らないが、追跡サービス付きで郵便物を連日送る理由は何なのだろう。 中にはやはり洋形封筒が入っている。 封筒の差出人に書かれた本名。 中身も予想通り絵が入っていた。 薔薇と蝶の細工が美しい小物入れと花の絵が描かれていた。 薄く開かれた小箱の蓋に挟まる黄色い花。 箱の傍らには同じ黄色の花が散らばっている。 四枚の花弁に雌しべを囲む数本の雄しべ。 菊に似た葉。 ――何の花かは全く分らない。 素朴で贈り物や花束にはまず使われないだろう。 裏返しても何も書いていない。 ただの絵だ。 ただの絵なのに、不穏だった。 それに、二日にわたり送られる絵に流石に奇妙だと思えた。 紗江の何か話したくて話せないその顔。 言いたいことを飲み込んだ口元を思い出す。 閉ざされた箱の蓋から覗く花。 傍らに千切れちらばる花。 無言のメッセージ。 紗江の白々しい笑い声。 彼女は本当に正気だったのだろうか。

ともだちにシェアしよう!