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第1話

『明日、私は死ぬだろう』 もう一度受話器を持ち上げる。 呼び出し音から留守番電話のメッセージに切り替わる。 ゆっくりと受話器を置く。 ドクドクと心臓が早鐘を打つ。 目眩がして、そのまま床にしゃがみ込む。 『――明日、私は……』 気付けば時刻は零時になる。日を超えてしまった。 目的も無く視線を彷徨わせ静かな部屋を見回す。 使用人も、父も、母も居ない。 この家には誰も居ない。 錦一人だ。 どうしたら良い。 途方に暮れもう一度受話器を取る。 カナダに留学すると話していた紗江。 手の込んだ悪戯であれば良いと、ダイヤルボタンを押す。 そんなことを思う反面、紗江はこんな悪戯はしないと不吉な暗示だけを信じてしまう。 あんな絵を送るから。 結局電話は繋がらない。 錦は暗澹たる気持ちで受話器を置き、絶望に膝を折る。

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