206 / 213

第3話

しんと静まりかえった部屋に錦は一人だ。 時計の秒針が進む音が小さく聞こえる。 昨夜はあんなにも張り詰めていたが、一気に緊張が緩む。 全て杞憂だ。 実際は何も、起こらない。 そんな都合の良い事を考えてしまう。 昨日はどうかしていた。 何事も無い。昨日と引き続き対して代わり映えの無い日常が続く。 根拠無くそう思う。 そう思いながら、やはり電話の前に立った。 受話器を取り上げたところでインターフォンがなる。 モニターで確認すれば笑顔の配達員。 手には見慣れたレターパック。 ここ数日で見慣れた専用封筒。 錦は当惑を滲ませ玄関の引き戸を開ける。 延段を小走りで駆け、門扉前で待つ配達員から封筒を受け取る。 差出人は川野 典子。 中身が何かは開封しなくても予想は出来る。 四通目のそれは手の中で酷く重く感じた。

ともだちにシェアしよう!