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第8話

どれ位こうしていただろう。赤みを帯びた陽射しは陰を孕み西に傾く。 窓から差し込む陽射しは正午と違い濃密な陰気さで感傷的な気分にさせる。 時計を見れば午後五時半になる。 湊から電話を切った後、自室にこもり錦は魂が抜けたように五枚目の絵に見入っていた。 ――紗江が死んだ。 錦と再会して三日後に少女は死んだ。 自殺だった。 学校で使用する縄跳びで首を吊った。 「……お前、留学するんじゃなかったのか」 今も絶えず受話器から漏れる湊の嗚咽がよみがえる。 いつどんな状況で紗江が死んだか震える声で必死に吐き出す。 変わり果てた紗江を一番に見つけたのは湊だった。 恐怖を吐き出さなくては内から侵食するとでも言うように饒舌に。 駆り立てられるように必死に。 同じ言葉を泣きながら繰り返す。 徐々に彼の言葉は上滑りして、紗江の朴訥が頭の中で繰り返される。

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