212 / 213

第9話

最後に錦の顔が見たかったと言ったとき、もう決めていたのだろうか。 もしも、錦が何か気の利いた言葉を口にすれば紗江は今も生きていたのだろうか。花の絵に込められた意思をくみ取れば、何かが変わっていたのか。 恐らく、結果は変わらない。 自死を強く望む人間は、必ず自らを殺める。 それが今か、今じゃ無いかだ。 それでも、「もしも」と別の選択が有ったのでは無いかと考えてしまう。 そうすれば、紗江はまだ生きていたのでは無いか。 ――何かもう良いや。 吹っ切れたかのように笑う紗江の顔。 ――大丈夫 本当は大丈夫じゃなかった。

ともだちにシェアしよう!