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第10話
何もする気になれず、湊から齎された紗江の訃報にばかり気持ちがいってしまう。
階段を登る足音さえ気づかなかった。
小さく名前を呼ばれ、錦は手元の絵を引き出しに収める。遠慮がちにドアを叩く音がし使用人が顔を覗かせる。家事使用人が長時間外出する事は珍しい。
帰宅の挨拶をし、血の気が引いた錦を窺いながら慎重に言葉を続ける。
「秋庭家の次女紗江様が逝去されました」
視線だけを移動し使用人を捉えた。
何だか随分と緊張した面持ちだ。さぁ、次は何を言う。
虚ろに見つめた先に、使用人は痛ましいものを見る目に変わる。
「旦那様と奥様が今夜戻られます」
彼らが戻る理由を考え、余計に気怠さが増した。
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