214 / 218
伽藍堂
午後八時。
簡単に身なりを整え、使用人に導かれ父と母の待つ広間へ移動する。
廊下を抜ける時、息苦しさを覚えた。
緊張に強ばる手を祈るように重ね瞳を閉じる。
――この襖の向こうに父が居る。
襖越しに使用人が声をかけ中から入室の許可が下りる。
襖の向こうの気配。記憶の中と違わぬ声。
足下から這い上がるざわつき。
ざわざわと広がる潮騒に似た音がこだます。
血潮が反響する。怯え緊張、渇望、そして、箱の中の閉じ込め蓋をした絶望と愛情。
こめかみが脈打つ。
切り捨てる方法を思い出す。
押しつぶす感覚を記憶からたぐり寄せる。
燃やして灰にする工程を脳内で繰り返す。
ゆっくりと瞳を開く。
感覚を少しずつ削る。
――体の強ばりがほぐれる。
削りとり、麻痺させる。
――呼吸が楽になる。
麻痺させて、そうしたら――痛みも何も感じなくなる。
燃やして灰にしてしまえば、きっと許される。
ともだちにシェアしよう!