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伽藍堂

午後八時。 簡単に身なりを整え、使用人に導かれ父と母の待つ広間へ移動する。 廊下を抜ける時、息苦しさを覚えた。 緊張に強ばる手を祈るように重ね瞳を閉じる。 ――この襖の向こうに父が居る。 襖越しに使用人が声をかけ中から入室の許可が下りる。 襖の向こうの気配。記憶の中と違わぬ声。 足下から這い上がるざわつき。 ざわざわと広がる潮騒に似た音がこだます。 血潮が反響する。怯え緊張、渇望、そして、箱の中の閉じ込め蓋をした絶望と愛情。 こめかみが脈打つ。 切り捨てる方法を思い出す。 押しつぶす感覚を記憶からたぐり寄せる。 燃やして灰にする工程を脳内で繰り返す。 ゆっくりと瞳を開く。 感覚を少しずつ削る。 ――体の強ばりがほぐれる。 削りとり、麻痺させる。 ――呼吸が楽になる。 麻痺させて、そうしたら――痛みも何も感じなくなる。 燃やして灰にしてしまえば、きっと許される。

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