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第1話
不要な感情は切り落とせば良い。
削ぎ落とせるものは全て捨て去れば良い。
存在価値、自尊心、矜恃、自己愛、自己肯定、愛情と痛覚。
愛を乞うのは愚かだから。
痛みを感じるのは許されないから。
何をしても空の器は満たせないから。
当時の錦は事実を受け入れるにはあまりにも幼くて、孤独が耐えれなかったから。
だから、間引き続けた。
そうすれば、まだ生きていける。
軽蔑も冷眼も死に損ないという言葉も全て受け入れることが出来る。
真っ先に殺したのは存在価値と自尊心。
次に遺棄したのは自己愛に矜恃。
自己肯定は罪だから関わる感情全てを灰にした。
捨て去るべき思いを探れば、その根源である家族という愛情に辿りつく。
どうも手放せない。
捨てきれない。
足下に落ちる間引かれた感情の中に家族への思慕は含まれては居ない。
錦は睨むように正面を見据える。
――俺は、捨てられたのに。
自らは手放す事は出来ないらしい。
居場所なんてないのに唯一の帰る場所だった。
そうだ、その彼らが――ここに居る。
過ぎ去った愛情に伽藍堂の家。
唯一の帰る場所。
膝をついた使用人が襖を開け、視界が横に広がる。
ただ、広く何も無い。伽藍堂。そうだ。これが、帰る場所。
そこには和服の女とスーツ姿の男が座っている。
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