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拓海は仕事の覚えが早く、即戦力だった。 「飲食のバイトしたことあるの?」 何も言わず、首を縦に振った。 「この時間、結構混むからまじ助かる」 「···」 チラッとこっちを向いて、拓海はお酒を作りにキッチンに戻った。グラスを運ぶ腕は細いながらも筋肉がついていた。 ー意外と筋肉あるんだな 次の日、講義終わりの純に拓海のことを聞いてみたが、やっぱり知らないようだった。 「入学アルバム見てみれば?」 そうだ、その手があった。 「あ、そっか。家帰って見てみる」 「いなかったら怖いけど」 「怖いこと言うなよ···」 「あ、そろそろ行かないと」 「ん、また明日なー」 「うん」 純はこの後、堀内先輩とご飯に行くらしく、えらく上機嫌だった。 純と別れて家に帰ると、散らかった本棚の奥から入学アルバムを引っ張り出した。開くのは貰った時以来だ。国際学部のページをめくると、拓海の写真があった。名字は高橋で、眼鏡はかけていなかった。 ー眼鏡外すと別人だな バイトに行くと拓海がいた。 「お疲れー」 「···」 相変わらず反応が薄い。 俺だけにそうなのかと思ったら、他の人にもそういう感じだった。 「もしかして···人見知り?」 一応聞いてみた。 「···分かってるなら話しかけないでください」 まだ敬語が抜けない。 「そんな冷たくしないでよー」 振り向くと拓海はもういなかった。 ー仕事できるからいいけどさ··· バイト終わりに店長が土曜に拓海の歓迎会をやろうと提案した。みんな賛成だったが、拓海は他のバイトがあるから行けない、と言って帰っていった。 ーバイト掛け持ちしてるのか もっと愛想よく、行けたら行きますとか言えばいいのに、と他のバイトが話しているのが聞こえた。 確かに、とは思ったが人付き合いが苦手なら仕方ないとも思った。 帰り道、前を歩く拓海の姿が見えた。声をかけたら迷惑かもとしばらく悩んだが、声をかけた。 「家こっちなの?」 いきなり声をかけられて、ビクッとしていた。 「あ、ごめん。驚かせて」 こっちを睨んでる気がする。 「俺も家こっちだから、一緒に帰らない?」 できるだけ丁寧に聞いてみた。 「···勝手にどうぞ」 そう言うと早足で歩き出したので、追いかけた。 「それ、夕飯?」 手に持っていたコンビニの袋を指差した。 拓海は頷いた。見たところ菓子パンとおにぎりしか入っていない。 「それで足りるの?」 「···足ります」 「そっか。俺大食いだからさ、それの5倍あっても足りないわ」 お腹を叩いて笑いかけると、拓海の表情が一瞬柔らかくなったような気がした。

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